SOGO SEIBU TransCulture

B16 第39回伝統漆芸展 受賞作品 Awarded Works of 2022 (全8作品・全て©日本工芸会)

文部科学大臣賞(The Minister of Education Award)
蒔絵沈金箱「夜遊戯」(よあそび)
奥行27×幅13X高12cm 木胎/金粉、銀粉、玉虫貝[蒔絵、螺鈿、沈金]
坂本 則  石川県/昭和29年生


蒔絵と沈金、そして螺鈿の技法を駆使した、長手の隅切漆箱の優品である。甲面と短側面のシダはやや明るく青粉は多めに蒔き、長側面のシダは黒乾漆粉を多めに蒔き暈かし、暗めに抑えた。研出した蒔絵の層が薄いので、沈金の点彫りには非常に気を遣ったという。蛍光の点彫りは3方向から彫ってあり、どこから見ても彫りの反射で光って見えるように工夫している。身の側面には遠景の草叢の中の小さな蛍の光のみを配し、底裏にはひっそりと一匹、蛍を忍ばせている。
記:佐々木正直

夏の夜に飛びから蛍たち。幼い頃よく見かけた田舎のありふれた情景です。今は懐かしいあの頃を思い出し、隅切の漆箱に配してみました。螺鈿で水を表現し、薄暗い中にも微かに見えるシダを青粉と黒乾漆粉を使い研出した後、その上に蛍を描き、蛍光を沈金の細かい点彫りで表現しました。いわゆる蒔絵と沈金の合作です。表からは見えませんが、身の底裏にも蛍が一匹静かに光っています。 記:坂本康則

東京都教育委員会賞(Tokyo Metropolitan Board of Education Award)
乾漆鉢 
奥行34x幅35x高11.8cm 乾漆/[髹漆]
長内 洋三 東京都/昭和22年生


乾漆造りならではの、おおらかで、つつみ込むような薄造りの縁で三弁の輪花の縞もほど良く見込みに流れ込み、高台作りもふっくらとした三足、その丸みもよくよく考えこまれた上でのものと思える。本朱塗りの呂色仕上げで落ち着いた色でありながら華やかさを感じさせ見応えがあり、作者の力量が遺憾なく発揮されている作品である。記:小森邦衛

この度は、名誉ある賞を頂き、誠にありがとうございました。昨年からよく郊外に自転車で出歩きました。その中で形が決まりました。製作途中で何度か造り変えました。内側の形、縁造り等、自分的には楽しんで造りました。記:長内 洋三

朝日新聞社賞(Asahi Shimbun Award)
蒔絵箱「遊彩」
奥行18.5X幅25.4X高8.2 木胎/金粉、銀粉、夜光貝[蒔絵]
米本 有希 石川県/平成7年生


モチーフは、作者が学生時代に地元の輪島の海で釣り上げ、スケッチしたクサフグ。背景の水の表現は、白漆にほんの少し青と緑の色漆を重ね、微塵貝や金銀粉を蒔いて研ぎ出す。渦を巻く水の流れに、さらに蜻蛉塗の複雑な模様を重ねて、泡沫がきらめく海の広がりを生み出している。銀平文と夜光貝で表されたクサフグの真ん丸な目とぷっくりとした口の、なんと愛らしく楽しそうなこと。清新な感性が率直に伝わってくる作品である。 記:中尾優衣

輪島の海でクサフグが元気よく楽しそうに泳ぐかわいらしい姿をみて今回題材にしました。クサフグ特有の模様は立体的に表現し、海に差し込む光や泡、流れは色漆や蜻蛉塗を用いて余白や動きを意識しました。この度は栄えある賞を頂きまして本当に嬉しく思います。自分だけの表現を生み出して行けるよう、これからも制作に励んでいきたいと思います。ありがとうございました。記:米本有希

MOA美術館賞(MOA Museum of Art Award)
乾漆蒔絵蓋物「天高く」
奥行15x幅22X高15cm 乾漆/金粉、銀粉、消金銀粉[蒔絵]
須藤 靖典 福島県/昭和30年生


乾漆による端反りの強い胴張矩形の個性的な造形の蓋物である。収穫の秋、実る稲穂に夕陽が当たり黄金色に輝く様を身の立面に表現している。丸粉で高上げした後に金銀の消粉を用い、緑漆で摺漆を行い明るい色調で表している。蓋は中央を盛り上げた膨らみのある形に摘みを付けている。表面は黒地に黒で文様を施し、立面とのコントラストを意識してまとめている。ベテランらしい安定感のある蒔絵技術と個性的な造形が評価された。記:室瀬和美

収穫の秋、豊作の田んぼの稲穂に夕日が注ぎ、一段とその黄金色が増す光景は、まるで夕日に照らされた海原の様にきらきらと輝いている様に見え、その瞬間を重ね合わせた表現にしてみました。素地は乾漆、稲は丸粉と下絵漆で高上げし、金・銀・常色の消粉で蒔絵を行っています。今回、大変栄誉ある賞を賜り、身の引き締まる思いとまた、新たなる制作に勤しんでいく良い機会となって行くことに感謝いたします。記:須藤靖典

奨励賞 石川健輪島漆芸美術館賞(Encouragement Award Wajima Museum of Urushi art Award)
蒔絵箱「衾雪」(ふすまゆき)
奥行18x幅18高11.5cm 木胎/金粉、銀粉、夜光貝[蒔絵]
中室 惣一郎 石川県/昭和47年生


丸みのある被蓋造の箱は、まさにこんもりとした衾雪を思わせ、一面の雪の中に咲いた椿花の赤が鮮やかである。地の部分は白のシボ漆を盛り上げ交差させ、銀粉を蒔きつめて研ぎ出す工程を繰り返したのような温かみのあるマチエールが、降り積もった雪の陰影を思わせる。茶粉を研ぎ出した墨画のような輪郭の椿と、色面で表した赤い椿の配分がバランスよく仕上げられ、雪がやんだ後の穏やかな光景が立ち現れる。 記:中尾優衣

雪の降る輪島の地で制作を行っていますと、この景色を表現したいという思いに駆られることが幾度かありました。そこで今回は絞漆で格子状に筋をつけた所に銀粉を蒔いて、夜のうちに降り積もった雪が日中の光にさらされ、表層がきらめいている様を表しました。雪の布団で覆われた世界を感じて頂ければ幸いです。ありがとうございました。記:中室惣一郎

奨励賞 熊本県伝統工芸館賞(Encouragement Award KUMAMOTO TRADITIONAL CRAFT MUSEUM Award)
蒔絵箱「竹林」
奥行11.5x幅18高×14cm 木胎/金粉、銀粉、夜光貝、白貝、鮑貝、顔料、チタニウム粉[蒔絵、螺鈿]
大角 裕二 石川県/昭和36年生


竹林に降り注ぐ碧や翠に輝く光の形態が印象的で美しい。上空に茂った竹葉を抜けて差し込む光を、作者は「天空から降って来るようだった。」と語って白蝶貝、夜光貝、鮑貝に数種類の伏彩色を施した効果が奥行きを生み、光の旋律が奏でられている。箱の身の立ち上がり部分には、竹林を楽し気に飛び回る雀たちが描かれている。金・銀・螺鈿と黒の空間バランスも絶妙で、高度で確かな技術に裏付けされた佳品である。記:市島桜魚

五月の陽気に誘われて生い茂る竹林に分け入って見ると、竹の葉越し光を受け、碧や翠色に鮮やかに輝く幹が天空から降ってくるようでした。何年か前に出会った光景でしたが今でも深く印象に残っております。光と竹が同化するようなイメージで、貝等の素材の力を借り制作致しました。今回は奨励賞を賜りどうもありがとうございました。これからも自然の中で出会った風景、感動を作品で伝えていければと思います。記:大角裕二

奨励賞 高松市美術館賞(Encouragement Award TAKAMATSU ART MUSEUM Award)
乾漆盆「三栗」(さんぐり)
奧行28x幅30.5X高2.8cm 乾漆/金粉、顔料[吸上げ]
真鍋民生 香川県/昭和30年生


変塗の技法のひとつ「吸上げ」を駆使して表現した乾漆素地のシックな盆の作品である。吸い上げの線が見える黒呂色を背景に、栗のいがが三つ帯状に並ぶ。中央の栗は黒と潤(うるみ・+茶色の漆)で描き、栗のいがは馬毛のタッチを活かして、金、黄、白、潤で描いている。見る角度によって、いろいろな豊か景色を見せる。細線とそれが生む光の跡を意識して独自の表現を追究した、その結実を示す秀作である。記:佐々木正直

秋の味覚栗をモチーフにいがと実をデザインしました。変塗の一種で「吸上げ」という技法を盆の背景にいがを帯状に描きました。角度によって盛りあがりがわかります。実は固く尖った栗のいがが実を守ろうとする内なるエネルギーまたはそのエネルギーに相反するように自然の生命力を感じてもらえばという思いで制作しました。ありがとうございました。記:真鍋 民生

日本伝統漆芸展新人賞(New Face Award)
乾漆蒔絵箱「雨落」(あまおち)
奥行24x幅28x高22cm 乾漆/金粉、銀粉[蒔絵]
新井 寛生 東京都/昭和61年生


静かに落ちる雨の情景をイメージした作品である。作者によると作品から雨音を感じてほしいと言う。乾漆技法を用いた楕円形で蓋の甲面を張りのある形に造形し、身へ繋がるように小さくする事で雨粒が落ちていく様子を強調する。長側面に雨を研出蒔絵で表し、短側面には黒漆面に凹凸を施し、雨水を照らす光の輝きを表現している。造形や蒔絵技術には荒削りな点は残るが、挑戦的な姿勢は新人賞に相応しい作品である。記:室瀬和美

このような賞を賜り大変嬉しく、そして身の引き締まる思いです。私は乾漆技法の自由造形を使い、漆の魅力を引き出したいと思っております。この作品では、甲盛の張り、側面に波々の凹凸をつけることで、美しい艶やハイライトのきらめきが感じられるよう考え、制作いたしました。まだまだ拙い者ですが、この新人賞を励みに、美しい作品が作れるよう日々努力してまいります。記:新井寛生

お手数ですが、お問い合わせ内容欄に必ずB16 第39回伝統漆芸展 受賞作品と記入してください