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B1 第37回伝統漆芸展受賞作品 awarded works of 2020 (全7作品・全て©日本工芸会)

文部科学大臣賞(The Minister of Education Award)
彫漆幾何学文八角盆
奥行25.6×幅25.6×高2.4cm 乾漆/金粉、顔料[沈金、彫漆]
松本 達弥 千葉県/昭和36年生


乾漆の少し小ぶりな八角盆。中国で宋時代に制作されてきた彫漆技法の一つ「犀皮」。彫りは古いぐり文様ではなく、作者好みの幾何学文様にし、また表面も黒漆を使わず溜漆を塗り重ねることで、朱色にうまく溶け込み、硬くなりがちなデザインに柔らかな表情を与えることに成功した。黄色、朱色、溜漆の絶妙なバランスにより、現代的で気品のある作品に仕上がっている。記:大谷 早人

これまで私は、中国宋時代に制作された彫漆の一種「犀皮」の繊細さ、優美さに魅了され、数々の作品を制作してきました。日頃、古美術の修復に携わっている私にとって古典が制作のヒントになる事があります。これからも受け継がれてきた文化財から謙虚に学ぶ姿勢を忘れずに制作していきたいと思っております。記:松本 達弥

東京都教育委員会賞(Tokyo Metropolitan Board of Education Award)
乾漆塗立盛器「渓泉」
奥行39.5×幅39.5×高6cm | 乾漆/顔料[髹漆]
内島 正雄 富山県/昭和17年生


細かく揺れて湧き上がる泉の澄みきった水を連想させる稜線が、少し渦を巻きながら器の周りを取り巻く、作者の最も得意とする塗り立て技法で仕上げられた朱塗の盛器である。手に取ると大変軽く、材料や技法の隅々まで気を配って制作されている。とりわけ仕上げに用いられた塗り立ての技術は素晴らしく、この技術に対する作家の長年の研究・熱意・誇りが伝わってる。器の形と相まった塗り立てによる漆の色と艶を是非味わって欲しい秀作である。記:林 曉

今度思いもよらず受賞の栄に賜りうれしく思っています。ある時山登りに出向き、下山の途中ふと目をとめると、地下から絶え間なく湧き出る、水の鼓動の力強さを眺め、自然の神秘な光景を作品のテーマにした。作品は雌型の石膏で型を取り、底部分に膨らみ縁に彫を施し、川に水が流れ出る様子を表現し、麻布6枚を張り全体を朱塗立技法で塗り上げました。記:内島 正雄

朝日新聞社賞(Asahi Shimbun Award)
蒔絵名刺箱「魚影」
奥行22.1×幅11.6×高7.5cm 木胎/金粉、銀粉、白蝶貝[蒔絵、螺鈿]
寺西 松太 石川県/昭和28年生


水のせせらぎが聞こえるかのようだ。作者は近年、水の表現に注力している。銀地にたゆたうドジョウ、その上に蜻蛉塗で水面の動きを表すことで、水深をも感じさせている。この情景に生命感を与えているのは、側面のぬくもりある白漆だろう。苔むした石もアクセントとなっている。蓋を開けると水中の世界が広がり、機能的な箱の造りも見えるのだが、これは手にした人のお楽しみ。箱の構造を生かした加飾が見事。記:永田 智世

近年、海や川の生物を題材にして変り塗(蜻蛉塗)を用いて制作しております。水面の透き間から泥鰌が微睡む様子を白漆と銀で画面を構成しました。箱の中は名刺が出し入れしやすいように工夫をし、青貝や乾漆粉を用いて仕上げております。今後もより一層精進し自分だけの表現を求め創作活動を続けたいと思っております。有難うございました。記:寺西 松太

MOA美術館賞(MOA Museum of Art Award)
乾漆銀線文箱「月の道」
奥行18.5×幅26.5×高12.5cm 木胎、乾漆/銀線[髹漆、象嵌]
荒川 文彦 石川県/昭和36年生


夜の浜辺に立ち、煌々と輝く満月が水面に映し出された情景を乾漆の蓋物を通し表現している。蓋は桧材で削り出しているが、蓋と身の膨よかな造形と塗り立ての漆の肌が静寂な空気感を演出している。蓋の摘みには月に寄り添うように光る星を加えたデザインを施し、身の側面には水面に映し出された光を銀線で表現し、上塗漆の色を変えアクセントを加えている。新鮮な感性を習熟した技が支える豊かで深みのある作品である。記:室瀬 和美

以前より、遥かなる宇宙や天文現象をモチーフに制作してますが、この作品は、天体が関わる現象で、輝いてる月がその高度によっては短時間、月にたどり着ける、道のような光を水面に映し出す「月の道」と言われるその情景、「月、光、穏やかな水面」を表現できないかなと思い制作いたしました。近年乾漆の作品に挑戦しており、今回、受賞することができ、大変に光栄で、今後の制作の励みとなりました。これからも、僕の大好きな宇宙をコンセプトとした作品の制作を続けていきたいと思います。ありがとうございました。記:荒川 文彦

奨励賞 石川県輪島漆芸美術館賞(Encouragement Award Wajima Museum of Urushi art Award)
蒔絵六角箱「陽春」
奥行12×幅22.2×高10cm 木胎/金粉、白蝶貝、顔料[蒔絵]
大角 裕二 石川県/昭和36年生


厳しい冬が終わり、山桜の花が咲く春の里山の情景を表現した木胎蒔絵の作品である。暖められた大気の流れを朱の乾漆粉を蒔いて溜塗の研ぎ出しで表し、山桜は白蝶貝と金粉に色塗で粉固めしたもので、陽の光を受けて輝く様を表現している。箱の形態は風で揺らぐようなイメージで変形の六角形とし、身の立ち上がりの前後には桜の花をついばみに来るメジロを配した。自然の風物をモチーフに高度な技術による独自の表現を追求する作者の秀作である。記:佐々木 正直

厳しい冬も終わり、雪が溶け、草木が芽を出し、花が咲く春の里山の歓喜を表現しました。太陽により暖められた大気を朱の乾漆粉と溜塗の研ぎ出しで表し、春の光を受けて輝く山桜を配しました。この時期、改めて太陽の恵みを深く感じます。今回の受賞を感謝いたしますと共に、更に制作意欲を高めさせて頂きました。今後も自然の中で出合った、心動かされる事象を具現化出来るように制作していきたいと思います。記:大角 裕二

奨励賞 熊本県伝統工芸館賞(Encouragement Award Kumamoto Prefectural Traditional Craft Center Award)
乾漆溜塗菊花蓋物
奥行24.5×幅24.5×高9cm 乾漆/本朱[髹漆]
築地 久弥 神奈川県/昭和32年生


素地は乾漆造りの蓋物で、未だ咲ききらない菊の花を器物の形のモチーフとして用いている。作者は石膏の塊から彫刻することによって、型を用いて引いただけの硬くなりがちな立体表現を避け、手業による自由で生命感溢れる造形を試みている。培われた技術を持つ作家の手から生まれる朱溜塗りの仕上げは深い艶をたたえ、暖かくも重厚な印象を見る者に与える。乾漆造りの器らしい温もりのある感触が、手に取って使ってみたいと思わせる優作である。記:林 曉

蒔絵、螺鈿も行うがやはり私は髹漆の仕事が好きだ。特に造形にはとことん取材(デッサン)に時間を費やしモデリングを行う。庭の菊の蕾は小さいがとてもエネルギーを内側から感じる。乾漆の作業では内貼りがほとんどで、この作品もこの形の雌型に布を貼る。塗りはグラデーションの朱溜塗り。透き漆は3人の掻き子さんの盛り漆を自分で黒目た漆をブレンドしている。掻き子さんの思いも作品に込めていきたいと思っている。記:築地 久弥

奨励賞 高松市美術館賞(Encouragement Award TAKAMATSU ART MUSEUM Award)
乾漆切絵盆「花筵」
奥行35.5×幅35.5×高5.3cm 乾漆/金粉、夜光貝、平文[髹漆、切絵]
根本 曠子 神奈川県/昭和13年生


花クロスのテーマは、作者が南蛮文化に興味を持った学生時代からのものである。榡地は石膏を削り出す雄型作りから始まり、麻布を貼り重ね、高台を付けた。加飾は作者独自の切絵で、薄い和紙で型紙を作り、それを4枚重ねて文様を切透し、平文や貝で割付けをして器胎に貼り合わせ、彩漆や金粉も同時に丹念に摺り込みながらグラデーションを付けた。乾漆の質感と華麗な切絵の装飾が融合し、草花を愛してやまない作者のやわらかで優美な世界が創り出された。記:佐々木 正直

薄い楮和紙にのり漆を引いて型紙をつくり、四弁花を切透し、平文や貝で割付けをして、盆全面にはりつめました。紙の表面が硬化するまで生漆を数十回摺り込み、彩漆や金粉でグラデーションをつけ、花十字をイメージしました。盆は石膏型に麻布を数枚はり込み、堅牢で薄く軽く仕上げるために半年以上乾燥させました。このたびの受賞は、今後の制作に、又新しく活力をいただき、ありがとうございました。記:根本 曠子

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