
B23 第40回伝統漆芸展 受賞作品 Awarded Works of 2023 (全9作品・全て©日本工芸会)
文部科学大臣賞(The Minister of Education Award)
沈金箱「開關」ちんきんはこ「かいびゃく」
奥行24.2X幅24.2X高8.5cm 木胎/金粉、金箔、顔料、白金粉[沈金]
水谷内 修 みずやち おさむ 石川県/昭和44年生
信仰の霊山、立山の春を告げる風景を沈金の技法で表現した胴張型の箱である。空はあくまでも青く高いことを彩漆で描き、高い雪の削り取られた壁面は点彫りで巧みに表わし、白金で色調を整えてある。側面の白漆も黒との対比が美しく、彫られたハイマツは、沈黒の技法で程良く配されている。作者の思いとする「開闢」の題名が観る者に共感を与える優品である。
記:山岸一男
第23回展に望む立山連峰が主題の作品を出品しました。それ以来となりますが、雄大な山に今も魅了されます。今回の主題は雪の壁。日本屈指の豪雪地帯で春の訪れとして多くの人を魅了する「雪の大谷」と言われる場所。人が大自然の中で生み出す造形を中心に、青や白の彩漆で箱全体を構成することから始めました。この度の受賞、誠にありがとうございました。人のこころに届くような作品づくりを心掛けたいです。
記:水谷内 修
東京都教育委員会賞
乾漆箱「滴り」かんしつばこ「したたり」
奥行34x幅13.5X高11.5cm 乾漆/金粉、顏料[髹漆]
奥井 美奈 おくいみな 神奈川県/昭和45年生
近年、作者は水をテーマとして、色と形で自然の営みを表現している。この作品は、水が流れて集まり、それが滴り落ちて、雫となって跳ね上がる、その様子を表現した。朱漆は自然の生命の表徴で、短側面の水滴は金の目紛で表した。麻布と和紙を数枚ずつ重ねた乾漆で形をつくり、胴に豊かな張をもたせるために蓋と身を一体に作って、それを切り分けて合口部をつくった。黄味のある朱漆は作者が調合したこだわりの朱色である。デザイン性と実用性を合わせ持つ造形である。
記:内田篤呉
この度は名誉ある賞をいただき、ありがとうございました。よく海、川、池など水辺を歩きます。気がつけば、水をテーマにした作品が多くなり、この作品も水にまつわる情景やイメージを重ね合わせて制作しました。これからも身近な自然やものごとを源に、作品を一つ一つ大切に作りたいと思います。
記:奥井美奈
朝日新聞社賞
蒔絵箱「優しい風」まきえばこ「やさしいかぜ」
奧行13x幅13X高14cm 木胎/金粉、銀粉、白蝶貝、金平目粉、乾粉[蒔絵]
田中義光 たなか よしみつ 石川県/昭和46年生
夏の強い陽射しが柔らぐ夕暮れ時、道端に咲く夏水仙が透き通るような白桃色に映る。花の周りにはカラスアゲハの蝶が舞っている。作者は、このような情景を前にしながら、自らの頬に触れる優しく心地良い風と光の空気感をこの作品に表現した。蒔絵は粉蒔き後に色漆で暈し塗り、朱の裏彩色による白蝶薄貝螺鈿、乾漆粉などを加え、小さな箱でありながら技術の高さを備えた作品として高い評価を得た。
記:室瀬和美
暑さも和らぎはじめ、微風がとても心地良く感じられる夏の夕、透き通るピンクの色をした花を目にし、しばらく眺めていると蝶がひらひらと飛んで来ました。その時に感じた、さわやかな空気感や自然が作りだす美しさを表現したいと思い制作しました。輪島は山や海に囲まれておりますので、これからも身近に感じられる情景を表現したいと思っております。今回鑑審査に携わってくださった先生方には、心より御礼申し上げます。
記:田中義光
MOA美術館賞
蒟醬箱「万華」きんまばこ「ばんか」
奥行22.7X幅14.2X高13cm 木胎/金粉、パール粉[蒟醬]
北岡 省三 きたおかしょうぞう 香川県/昭和24年生
「万華」は空想上の花のことで、中国の文様に登場する唐花であろう。蓋表から短側面にかけて華やかな花模様を配し、長側面は黒漆を主体とした花唐草菱で飾り、金色と黒色の対比を際立たせたデザインである。模様は点彫りをつないだ作者独自の蒟醤法で、描線に柔らかさと味わいを持たせている。金色は金の丸粉と平極粉、パール粉の3種類の粉を混ぜた黄味がかった色調で、花芯は緑色に染めたパール粉である。「形とデザインを楽しんだ」と言うように、作者の想いを器にしている。
記:内田篤呉
昨年、彫漆で「万華」を制作しました。その時、より繊細に、また、華麗に仕上げたいと思い、今回は蒟醬技法で取り組みました。華と唐草をデザインし、箱に構成を考え、全体の金と黒のバランスを意識することで優美さを表現し、随所に青緑をちりばめることで華やかさを際立たせました。この度の受賞は新たな制作に励んでいく糧となりました。今後も柔軟な心で漆と向き合っていきたいと思っております。
記:北岡省三
日本伝統漆芸展第40回記念賞
乾漆合子「花ひらく」かんしつごうす「はなひらく」
径24.5X高11.5cm 乾漆/麻布[髹漆]
清水康志 しみず やすし 石川県/昭和49年
夜明け前のほの暗い光の中に花が蕾を膨らませる姿を乾漆により、蓋物として造形する。中塗りの段階で花びらの先端を朱漆で暈し塗りをし、その後全体に透漆で上塗りを施す。さらに艶を上げることにより、花びらの先端部分が光を通したような柔らかい色調として目に入ってくる。花びらを広げようとしている微妙な動きをとらえ、曲面の移り変わりを繊細に表現した優品である。
記:室瀬和美
明け方の蕾から花へ開きはじめる様子を表現できたらと思い制作を始めました。特定の花というよりはイメージを優先して形にしました。花びらから脚への形状はとても迷い苦労しましたが納得のいくものになりました。今回このような賞を頂き、今まで支え、応援してくださった方々によい報告ができ、本当に嬉しく思っております。これからも自分の想いを形にできるよう制作に励みます。ありがとうございました。
記:清水康志
奨励賞 石川県輪島漆芸美術館賞
彫漆香合「双蝶」ちょうしつこうごう「そうちょう」
径5.4X高7.4cm 木胎/顏料[彫漆]
松原 弘明 まつばらひろあき 香川県/昭和42年生
この作品は欅で作られた香合である。作者も漆芸家としては中堅となり、今回の作品も肩の力の抜けた落ち着いた作品となっている。彫刻刀の切れの素晴らしさだけでなく、2頭の蝶(アサギマダラ)のバランス、そして白く抜いたソテツの葉の間から見える丸刀彫りされた地面、彫漆技法では硬くなりがちなデザインを艶を上げた面と、彫りっぱなしでマットな地面をうまく使い、シャープで上品な作品に仕上げている。
記:大谷早人
サギマダラは瀬戸内の島々では春と秋に季節を告げる蝶として非常に身近な生き物です。この小さな身で北は北海道、南は台湾まで2000キロも旅をする蝶で、その驚異的な能力と生命の神秘さに心引かれモチーフとしました。
記:松原弘明
奨励賞 高松市美術館賞
籃胎葡萄文奧賽羅盤らんたいぶどうもんおせろばん
奥行31X幅29X高5.5cm 籃胎/金粉、夜光貝、顏料[蒔絵、螺鈿]
辻 孝史 つじ たかし 香川県/昭和48年生
素地は籃胎で製作し、蓋表には菱形の上に具象的な葡萄が蒔絵の技法でうまくデザインされている。一見するとただの箱であるが、作者はこの展覧会の趣旨にある、「今日の生活に即した作品」を、と考えたのだろうか、蓋を裏返すとそこには、オセロゲーム盤が出現する。螺鈿で四角いマスを、そして石の表裏を葡萄の紫と緑の実で表現している。この作品を見た人達が思わず使ってみたくなるような、遊び心のある楽しい作品となっている。
記:大谷早人
江戸時代の婚礼調度に欠かせない遊戯具三面盤をヒントに、オセロ盤制作に挑戦しました。モチーフは昨今の世界情勢を憂い、聖書で平和と繁栄を意味する葡萄にしました。盤の板、本体、オセロの石を竹ひごを編んで胎とする籃胎で作り、盤板を反転させて遊ぶ構造とし、盤面は擦を想定して、緑色の乾漆仕上げに、目盛は螺鈿。石は葡萄の実をイメージした色で、石が反転する度に、マスカットと巨峰が楽しめる遊び心を込めました。伝統と現代生活の融合を評価して頂き、伝統工芸を模索する上で大変励みとなりました。ありがとうございました。
記:辻 孝史
奨励賞 会津若松市長賞
沈金箱「冬萌」ちんきんはこ「ふゆもえ」
奥行14.9X幅21.8×高13.3cm 木胎/白金箔、白金粉[沈金]
塚田 美里 つかだ みさと 石川県/昭和62年生
厳しい冬が終わりを告げ、春の陽射しを浴びて浮かぶ白木蓮の花芽を表わしている。胴張り型の小振りな箱に沈金の技法である点彫りと毛彫りを用いて春の趣を表現している。色彩はプラチナを使用しており、やや控えめな色調が、毛彫りのやわらかさ点彫りの空気感を絶妙に醸し出し、作者の思いと相まって春を待つ人の心を温めてくれる秀作となっている。
記:山岸一男
輪島で漆を学びはじめてから10年あまり経ちます。沖縄出身の私にとって、輪島の冬は厳しいものですが、その分、春への希望の気持ちは膨らみます。冬が終わりを迎える頃、白木蓮の新芽はふわふわの毛を纏っています。愛らしさの中に生命が宿るその姿を表現したいと思い制作しました。背景には名残雪が舞っており、プラチナの冷たい印象の彩色で仕上げましたが、温かい息吹を感じて頂ければ幸いです。
記:塚田美里
日本伝統漆芸展新人賞
乾漆螺鈿蒔絵飾箱「夏華」かんしつらでんまきえかざりばて「かか」
径17.5X高12.5cm 乾漆/金粉、銀粉、夜光貝、白蝶貝、金[研出蒔絵、螺鈿、平文]
馬 莉 ま り 東京都/昭和55年生
まるで、漆黒の天を目指して、大小いく筋もの命が伸び上がっているかのような印象を抱かせる。命が芽吹き、伸びる時の産声を表現しているようにも見えたのは、作品全体から初々しさ、愛らしさ、そして新鮮な感性を感じるためかもしれない。一方で蒔絵粉の使い分け、ぼかし、螺鈿の形、配置の仕方などは、図案力と構成力の確かさも伝えている。感性と構成力を形にする技術力もあわせ持つ、今後も期待させる作品。
記:小林めぐみ
このような賞を賜り大変うれしく、光栄に思います。乾漆の造形技法と、螺鈿や蒔絵の加飾技法を組み合わせて、漆、螺鈿、金粉、銀粉の異なる質感で、夏の夜に草むらに寝転んで植物の隙間から星を見上げたときに見える風景を表現したいと思いました。留学生として、新人賞を受賞できたことは大きな励みになりました。今後もより良い作品が作れるように努力していきたいと思います。
記:馬 莉
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