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B34 第41回伝統漆芸展 受賞作品 Awarded Works of 2024 (全7作品・全て©日本工芸会)

文部科学大臣賞(The Minister of Education Award)
乾漆高杯「夕の時雨」かんしつたかつき「ゆうのしぐれ」
径34.5×高15cm 乾漆/顏料[髹漆]
伴野 崇 ともの たかし 長野県/昭和58年生


日が沈むころに降る雨から着想を得た。口縁のレリーフで風をイメージし、朱の暈しがその情景や心の動きを高めている。季節感や時間の経過、その場の状況など、様々な要素を造形と色彩に変換して高杯という器形に落とし込んだ。審査をするにあたり、日本伝統漆芸展ならではの新たな試みやチャレンジングな作品を選定して、漆芸の面白さや楽しさをも伝えたいと願った。清新な作風は会に勢いをもたらし、新たな風を呼ぶに違いない。
記:唐澤昌宏

あの日は晩秋の季節だったと思います。日が落ちてゆき、それを待っていたようにわずかに風が舞っていきました。するとかすかに雨の匂いがたちはじめ、しだいに音は無くなっていきました。何気ない日暮れの時と、そこで詩人になりきったかのような自分を思い返しながら、少し物憂げな題材に挑んでみました。作品制作には伝統と前衛、そして主題との融合の難しさに毎回悩まされておりますが、今後も励んでいきたいと思います。記:伴野 崇

東京都教育委員会賞(Tokyo Metropolitan Board of Education Award)
彫漆箱「律」ちょうしつはこ「りつ」
奥行12×幅34×高14cm 乾漆/顏料[彫漆]
松原 弘明 まつばらひろあき 香川県/昭和42年生


アーチ型の乾漆素地に、灰色、白、薄青から紺色のグラデーションとなるよう色漆を60回塗り重ねている。作者がテーマとした「リズミカルな情景」は、彫りの段差と色の濃淡が効果的な幾何学文様となり、まるで万華鏡の世界のように角度を変え多様な情景が見えてくる。連続する方形の中に帯状の長い直線を配した事で、より全体の文様が際立つ効果もみせている。彫漆の新たな可能性と作者の多彩な力量が感じられる優品である。記:藤田正堂

日々の作業中に古典落語をよく聴いています。噺家の軽妙な語りと話の中の登場人物の軽快さがたまらなく心地良く現代の日本人が忘れかけている粋を感じ、色漆と彫りの質感を活かしリズミカルに表現してみました。これからも挑戦することを恐れず制作したいと思います。記:松原弘明

朝日新聞社賞(Asahi Shimbun Award)
髹漆八角箱「あけぼの」
きゅうしつはちかくばこ「あけぼの」
奥行24.3×幅24.3×高8.7cm 木胎/顔料[漆、塗り立て]
荒川 文彦 あらかわふみひこ 石川県/昭和36年生


印籠蓋造りの箱である、素地をヒノキの指物技法で制作、下地付けは還暦を過ぎて経験は豊富、蓋を身の何処に置いても納まる。朱漆を中塗りする、透漆を混ぜた黒漆で上塗りする、角を箆ですくい曙の空気感を表現する。髹漆を生業にする作家には今の時代非常に厳しい状況がある、自分の仕事を続けて行こうとする矜持を保つ、この作品は単純明快にそれを表している。記:增村紀一郎

夜明け。まだ薄暗い空、流れるような雲が紅く煌めく。この情景を作品にしたいと想い、漆黒の中に朱がキラリと浮かび、朱と黒のコントラストが出るような塗り方をと考えました。外側を本朱艶漆で中塗り、黒溜消漆で上塗りを施し、各角を細くヘラで掬い取り、シンプルな八角形の直線を際立たせました。私にとって初めての塗り方で挑戦した作品を評価いただき受賞できたことは、これからの作品制作にとても励みとなりました。これからも新たなことに挑み続けたく考えています。ありがとうどざいました。記:荒川 文彦

MOA美術館賞(MOA Museum of Art Award)
沈金箱「波の華」
ちんきんばこ「なみのはな」
奥行24×幅24×高8cm 木胎/白金粉、銀粉[沈金、銀嵌]
水尻 清甫 みずしりせいほ 石川県/昭和29年生


銀粉と白金粉を蒔き暈した花紋が並ぶ十六角の側面から、円形に収斂した甲面に太さの異なる銀色の曲線がリズミカルに波打つ。波は作者が長く取り組み、沈金や漆象嵌で表現してきた題材だが、今回は黒と銀のモノトーンで、品良く仕上げることに傾注したという。型を用いた大きなうねりの彫りに、フリーハンドによる青海波の彫りを組み合わせ、彫り溝には白漆に銀粉を充填し研ぎ出した。沈金ノミの種類や運刀法の巧みな使い分けが効果を生んでいる。
記:細川 貴久美

海中と海上をテーマに、描いてきましたが、今回は、初めての十六角器物に能登の冬の海、波の華を表現。蓋の表は銀象嵌技法、波の線の太さを変えて彫り、点彫と曲線彫で、グラデーションを表現しました。側面の華文は、波の華の変幻で蒔絵と沈金の技法で、親側面は白金と銀地で青海波は沈金彫で描き、全体に白と黒のモノトーンで表現、白金と銀を使う事で、冬の能登の海、荒波に咲く、波の華を表現した。十六角器物にまとめました。記:水尻 清

奨励賞 石川健輪島漆芸美術館賞(Encouragement Award Wajima Museum of Urushi art Award)
籃胎蒟醬短冊箱「炎昼」

らんたいきんまたんざくばこ「えんちゅう」
奥行40×幅10×高5.5cm 籃胎/顏料、錫紛[蒟醬]
神垣 夏子 かみがきなつこ 東京都/昭和56年生


記録的な猛暑だった2023年の夏を、色合いを限定することで象徴的に描き出した。彫漆を学び、蒟醤を手掛ける作者ならではの幅の広い彫りが、線の揺らぎや色漆の濃淡を生んでいる。美しいと感じる仕事は、場合によっては完璧さを求めたものでなく、その曖昧さの中にもある。その効果を引き出すため、紺色から黒色へ、また白色から緑色へと、少しずつ色を変えながら色漆を何度も重ねている。そこには根気と粘りも含まれている。記:唐澤昌宏

2023年の夏は大変な猛暑で日常が苦しかった記憶があります。ギラギラと照り返す水面と映る草の影でその無風の暑さを表現しようと試みました。楽しかった、嬉しかった、辛かった、悲しかった⋯など。感情のポジティブとネガティブのコントラストの幅が広い事が豊かな人生だと思っています。自身が感じる様々な光と影を漆を用いて美しさに昇華できるよう精進してまいりたいと思います。記:神垣夏子

奨励賞 高松市美術館賞(Encouragement Award TAKAMATSU ART MUSEUM Award)
乾漆蒟醬箱「木成」
かんしつきんまはこ「ふゆこもり」
奥行11×幅30×高12cm 乾漆/顏料[蒟醬]
藪内 江美 やぶらちえみ 香川県/昭和55年生


木成(ふゆこもり)は万葉集の春を導く枕詞であり作者が北国を旅した風景を表している。素地は乾漆技法で造られている。蓋の甲面にサビ漆で肉付けをし、黒漆を12回ほど塗り重ねた後、丸刀彫(がんとうぼり)を行っている。色埋は淡いグレーの漆に銀色のエルジー粉をまぜ35回ほど行っている。彫りの粗密により冬の木々の表情が表され白とグレーのシンプルな色使いが凛とした空気を感じさせる。記:佐々木正博

いつもの風景を一変させる雪は、心惹かれる大好きなモチーフの一つです。山を覆い木々に積もる様に心踊り、幼い時に過ごした景色が懐かしく思い出されます。一面の白さの中に光と影の変化を表現したいと考え、天面に稜線を作り、モノクロームの世界を描きました。どこか不思議と温かく感じられる、心の中の雪景色を重ねています。この度頂いた受賞の喜びを糧に今後も制作に励んで参ります。ありがとうございました。記:藪内江美

日本伝統漆芸展新人賞(New Face Award)
沈金箱「水底の影」
ちんきんばこ「みなそこのかげ」
奥行12×幅21×高10.5cm 木胎/金粉、金箔、顔料[沈金]
大角 佳美 おおかどよしみ 石川県/昭和46年生


池の中を覗き込む作者の視線そのままに、箱の甲面には金魚藻がたゆたう。線彫りに金箔と本金・青金の消粉を重ねて階調を施した藻の間から、白金粉で輝く砂粒や素彫りの石が見え隠れしている。初めて本格的に挑戦した漆象嵌で、金魚のぬるりとした質感を表した。しかし、本作の主眼は泳ぐ金魚に連動して藻を揺らす水そのものである。金魚の朱の暗みや、淡い石の輪郭などから、水を透過した景色に興趣を覚えた作者の思いが伝わる。
記:細川 貴久美

昔、中庭にあった小さな池。覗き込むと水草がつくる影が水底の光を揺らしていました。暗がりから不意に現れた金魚が鮮やかな鰭を翻しては去っていきます。
時を忘れて見入った光景を沈金技法にて箱に構成しました。至らない点も多く課題が残りましたが、この受賞を励みに経験を次に活かしたいと思います。有難うございました。
記:大角佳美

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