SOGO SEIBU TransCulture

B8 第38回伝統漆芸展 受賞作品 awarded works of 2021 (全8作品・全て©日本工芸会)

文部科学大臣賞(The Minister of Education Award)
彫漆盛器「早春」
奥行28.2x幅28.2X高8.7cm 乾漆/顔料[彫漆]
松原弘明 香川県/昭和42年生


乾漆素地の器の八角形の縁を、春先に可憐な花を咲かせる雪割草のモチーフで飾った彫漆の作品である。十数段階の濃淡の色漆を塗り重ね、白、濃いピンク色、グラデーションの花弁をもつ、斑入りの葉を彫り、しべには金平目紛と黄の彩色を加え、自作した金露玉を花地紋は素彫りのまま仕上げた。高い技術力によって、少ない色数で多彩なおり、磨き仕上げた光沢面と素彫りのマットな面の対比も効果的である。
記:近藤 都代子

モチーフは雪割草で、雪の下でも常緑のまま冬を耐え、他の花に先駆け春の到来を知らせてくれる可憐で力強い植物です。その生命力を表現したくサーモンピンクから白のグラデーションに塗り重ねました。これからも身近な自然に学び、自分らしい表現ができるよう制作していきたいと思っております。

記:松原 弘明

東京都教育委員会賞(Tokyo Metropolitan Board of Education Award)
紗塗重箱「淋」
奥行12X幅26.5高11.5cm ヒバ/金粉、銀粉、鮑貝[紋紗塗]
松山継道 青森県/昭和32年生


紋紗塗は、津軽地方で発達した多様な変り塗技法の一つ。この作品は、艶消しの中にも特有の光沢をもつ籾殻炭を蒔いた紗地に、あらかじめ黒蠟色漆で付けた円文や斑点文を研ぎ出したもので、紗地に円文の光沢面が映える。鮑薄貝の螺鈿と金、銀の蒔絵を併用して各素材の色や光沢を使い分け、作者は、大きな雪片がひらひらと舞い落ちては融けてゆく、春の淡雪のイメージを表現した。
記:近藤 都代子

この度は、思いもよらない名誉ある賞をいただき、誠にありがとうございます。私は青森県の伝統である紋紗の素材を生かしながら長年作品を作り続けてまいりました。今回の作品は、春の雪「ぼたん雪」が空から舞い降りてくる様子を黒の艶のある部分と黒の艶のない紗で表し螺鈿で光って降り落ちてくるように見えるように表現してみました。
記:松山 継道

朝日新聞社賞(Asahi Shimbun Award)
乾漆鉢「ながれ」径41X高9cm  乾漆/麻布[漆]
高山 尚也 広島県/昭和56年生


作品のタイトルから、中心から外へから鮮やかな3本の流れが作品の見どころとわかる。しかし、この作品の美しさは、実は立ち姿にある。立ち上がりの反りの形を丹念につくり出し、さらに、薄づくりにこだわったことで口縁までの美しいアウトラインが生まれている。型成形による乾漆の技法ならではの柔らかな3本のラインに、乾漆では難しい反りのあるラインを加えたことで、より華やかさを演出することに成功したといえよう。
記:唐澤昌宏

 

私の生活する広島市は川に挟まれた、水と緑が豊かな街です。その市中を流れるおだやかな川の「ながれ」を鉢の中心から伸びる三本の線で表現しました。この度は、このような名誉ある賞を頂戴し、光栄に思います。自分だけの表現を追い求め、より一層創作活動に邁進していきたいと思います。有難うございました。
記:高山尚也

MOA美術館賞(MOA Museum of Art Award)
堆漆象嵌蔓草文小箱
石原 雅員 香川県/昭和35年生


奥行9.5X幅20X高18cm 木胎/顏料[堆漆]
木地は館風の六角形の指物である。作者は近年、彫漆技法の加飾の拡がりを求め、様々な試みに挑んできた。今作もその一環で、彩漆を何十回と塗り重ねたものを断面に切り取り、それを張り合わせ、朱、白、黄緑と明るい色調が繰り返され軽快感が感じられる。花は蒟醬技法で表し、彫漆と蒟醬の技法がらまく融合されている。箱の形と文様とのバランスが、箱としての用途だけでなく、飾箱としても楽しめ、今後の更なる展開が楽しみな作品である。
記:山下義人

アブダビのイベントに出品した際、多くのカルチャー文化の違いをそして遥か昔、やがてシルクロードを経て日本に入る文化を想像しながら、壮大なモスクの壁、天井、床などに大理石により施されていた、アラベスク文様の印象を堆漆板、蒟醤、黒漆、欅を使い、アラビアの蔓草紋様デザインを現代的に表現してみました。今回大変栄誉ある賞を賜り、更に新しい表現デザインを模索して行こうと思います。有難うございました。
記:石原雅員

奨励賞 石川健輪島漆芸美術館賞(Encouragement Award Wajima Museum of Urushi art Award)
乾漆線文箱「暁光」
奧行17.5X幅23.5X高13.5cm 乾漆/銀線[髹漆]
荒川文彦 石川県/昭和36年生


稜線から差し込む御来光を仰ぎ見た時の、崇高な感動を思い起こさせる。中央の帯の部分は、朱漆と黒漆の暈しの効果によって、朝日の差し込みを強く印象づけ、三本の象嵌の銀線が日の光を際立たせている。艶のある漆と艶消しの漆との、塗り肌の質感の違い、そして銀線のみで景が端的に表現されており、造形感覚に優れた、雲海の広感じさせる作品である。
記:中野孝

近年、乾漆技法にて制作しています。今回初めて合口のある箱に挑戦しましたが、蓋の微妙な動きがなかなか収まらず苦労しました。陽が昇ろうとするその時、山際が朝焼で紅く染まり、そして光り、輝き始めます。その「暁光」と言われる空の光、その美しさをモチーフとし、作品に表現してみました。これからも、美しい自然現象、自然事象を自分なりに解釈し、作品に活かし制作を続けていきたいと思います。ありがとうございました。
記:荒川 文彦

奨励賞 熊本県伝統工芸館賞
変塗盛器「Flair」
径36X高3.8cm 木胎/玉虫貝、顔料、もみがら[髹漆]
木村正人 青森県/昭和40年生


器の見込みに見られるマットな質感と独特な模様が目を引く。これは津軽塗の代表的な技法のひとつ、もみ殻炭粉を使用した紋紗塗を独自に発展されたもの。伝統の技を解体し、素材やプロセスにアレンジを加えることで自身の表現へと導いた姿だ。厚くつくられた器の側面には伝統の唐塗の技法に玉虫貝を蒔き、より華やかさを増している。色彩の対比に加えて質感の対比にも気を配ったことで、特徴ある作品に仕上がっている。
記:唐澤昌宏

この作品のイメージは心の炎・自己表現「Flair」です。放射線状紋紗塗を粗目にする事で力強さを、縁の唐塗部分は黒の艶の中に赤の模様にする事で熱さと更なる広がりを出し、紋紗塗と唐塗それぞれの質感を生かして表現してみました。自分で採った漆を使って作品にするのは楽しく、漆の不思議さをしみじみと感じています。
記:木村正人

奨励賞 高松市美術館賞(Encouragement Award TAKAMATSU ART MUSEUM Award)
乾漆蒔絵蓋物「こもれび」
奥行19x幅21X高11cm 乾漆/金粉[蒔絵]
須藤 靖典 福島県/昭和30年生


手にすると軽い、乾漆素地の造りが実に良い「名品に重いもの無し」を地で行く作品である。林の中を散策中に心に響く光景を絵にしてある。多角形で面取りの側面に抽象化した樹々は、銀丸粉を用いた高蒔絵で凹凸を作りだし、その上に蒔いた純金と青金の色が作品周囲の光の反射を受けて美しく印象的な作品である。この金色は作者の地元、会津蒔絵が誇る伝統的な消粉蒔絵の技法である。
記:增村紀一郎

今作は、木の幹や葉を育む光をテーマに取り組んだ作品です。技法は、素地を乾漆とし、加飾は幹や葉を立体的に表現する為に、銀丸粉で高上し、その後、地元会津の蒔絵材料である消金粉を使い、光が木々に燦々と降り注ぐ様を表現してみました。今回の受賞は、常に新たな作品づくりに挑戦していく大切さを、改めて感じさせて頂く機会となりましたことに、深く感謝申し上げます。
記:須藤典

日本伝統漆芸展新人賞(New Face Aword)
乾漆螺鈿盛器「波光」
径30X高9cm 乾漆/白蝶貝、プラチナ箔[螺鈿]
松本真奈 千葉県/平成7年生


一見すると輪花鉢に見えるがそうではない。初めに麻布を円形の石膏型に貼り重ねた乾漆素地を作る。型から抜いた鉢の外側は刻苧で波形を、内側は砥の粉錆で作る。用いた素材の違いは明らかな造形を見せている。内部の螺鈿は白蝶貝、プラチナ箔で伏彩色した貝は優しい光を放ち、施ない貝は水に溶け込んでいる。器の黒色は、念入りに行った胴刷りの効果か透明感を増している。エネルギーを注いだ若い活気が感じられる。
記:增村紀一郎

波をモチーフに乾漆技法で制作し、稜線が波の流れを表すように造形しました。加飾では波の泡が輝いている様子を表現したいと思い、白蝶貝にプラチナ箔で伏彩色した螺鈿技法を試みました。まずは出品することを目標に、日々制作に取り組んできました。この賞を励みに、これからも心を込めて制作し続けたいと思います。
記:松本真奈

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